1979年、仙台で生まれたカステラ×カスタードの菓子ひとつが、いつしか日本各地で「〇〇の月」と名乗る菓子たちを生んだ。その広がりの理由と、今も増え続ける"ご当地の月"を集めた。
「パクリ」と呼ばれがちなこの現象には、菓子業界特有のはっきりした理由がある。鍵を握るのは、一台の製造機械と、ある選択だった。
萩の月の製造ライン「ソフトムーンケーキライン」は、埼玉県所沢市の製菓機械メーカー・マスダック製。導入時は門外不出の契約が結ばれ、しばらくの間は他社が同じものを作れなかった。
発売から7年ほどが過ぎて契約が切れると、マスダックは同種の機械を全国の菓子メーカーへ販売開始。土産品業界への新規参入のハードルが一気に下がったとされる。
菓匠三全は萩の月の外観を意匠登録しなかったと言われている。丸くふっくらした形、カステラ生地でカスタードを包むという構成自体は、法的に誰でも模倣可能な状態だった。
満月に見立てた黄色い円形という見た目にならい、類似品の多くが「〇〇の月」「月で〜」と月にちなむ名を選ぶ。結果、全国の菓子売り場に"月"があふれることになった。
宮城・菓匠三全が「萩の月」を発売。カスタードクリーム×カステラ生地の元祖。
機械の独占契約が終了。マスダックが製造機を全国販売し、模倣品が作れる土壌が整う。
富山で「甘金丹(かんこんたん)」発売。地方銘菓としての"月系菓子"第二世代。
鹿児島で「かすたどん」発売。郷土菓子「軽羹」の技術を応用した独自路線。
セブン-イレブンの「ふわころ」、シャトレーゼの「ふんわりムーン」などチェーン店へ拡大。
個人ブログ・SNSの調査で全国90品以上を確認。「ジェネリック銘菓」という呼び名も定着。
各商品の実写画像は権利の関係で掲載できないため、断面をイメージしたオリジナルアイコンで紹介する。地域ボタンで絞り込みができる。
これだけ似た商品が全国にあっても、菓匠三全が類似品を相手に訴訟を起こしたという記録は見当たらない。ロゴや箱のデザインなど商標登録された部分を模倣すれば別だが、「丸くてカスタード入り」という構成自体は誰の専有物でもなかった。
今では「ジェネリック銘菓」という言葉自体がちょっとした愛称になり、本家と類似品を並べて食べ比べる企画がブログやSNSで人気を集めている。優劣を決めるためというより、それぞれの土地の個性を味わうための遊びとして楽しまれている。