ここまで来たあなたへ
Webサイトを作り、公開し、本を売り出し、アプリをApp Storeに出す。この本でたどってきた道は、少し前なら、プログラミングを何年も学んだ人にしか歩けない道でした。
AIのおかげで、その道は開かれました。けれど、AIは魔法の杖ではありません。まちがえるし、忘れるし、頼まれていないことまでしてしまうことがあります。長く一緒に作っていくには、その性質を知って、うまく付き合う必要があります。
最後の章では、実際に起きた失敗と、そこから生まれたコツをまとめます。
失敗の記録
「今日の分だけでいいのです」
noteの連載の記事を、AIに下書きしてもらったときのことです。その日の出来事だけを書いてほしかったのに、AIは、それまでの経緯を全部まとめた長い記事を書いてきました。すぐに「今日の分だけでいいのです」と伝えて、書き直してもらいました。
わかったこと:AIは、親切のつもりで「多め」に作ります。何を入れて、何を入れないかは、はっきり言う必要があります。そして、一度伝えた決まりは、メモに残しておくと、次からまちがえません。
AIのまとめが、まちがっていた
AIとのやりとりが長くなると、それまでの話は自動で短くまとめられます。あるとき、そのまとめに「連載の第1回はまだ書いていない」とありました。実際には、何日も前に書き終えていました。
わかったこと:AIのまとめや報告は、まちがうことがあります。大事なことは、まとめを信じこまず、実際のファイルや記録で確かめます。
置いておいたはずの資料が、消えていた
手帳を作ったときの資料一式を、ダウンロードのフォルダに置いたままにしていました。あとで続きを作ろうとしたら、そのフォルダから資料が消えていました。前のやりとりをさかのぼって、なんとか取り直すことができました。
わかったこと:作品の資料は、作業用のフォルダにまとめて置きます。「とりあえず」の場所に置いたものは、いつかなくなります。
直したのに、変わって見えない
サイトの見た目を直したのに、何度見ても前のままでした。ブラウザが、前の見た目のファイルを覚えていたためです。見た目のファイルを読みこむところに、版の番号をつけて、直すたびに番号を上げるしくみにしました。
わかったこと:「直した」と「見る人に届いた」は別のことです。最後は、見る人と同じ条件で確かめます。
ヒトリキカクが大事にしている6つのこと
1. 決めるのは、いつも自分
AIは案を出してくれます。おすすめも教えてくれます。けれど、何を作るか、何を載せるか、何を消すかを決めるのは、あなたです。AIが決めたように見えても、それを選んだのはあなただと、ヒトリキカクは思っています。作品に名前を出すのは、あなたなのですから。
2. 確かめてから、次へ
「できました」「直しました」と言われても、自分の目で見るまでは、できたことにしません。第1章からくり返してきた「頼む → 開く → 確かめる」は、最後まで変わりません。
3. 記録を残してもらう
AIは、日をまたぐと、前のやりとりを覚えていないことがあります。だから、大事なことはファイルに残してもらいます。
- 決まりごと:色、ことばづかい、やらないこと(
CLAUDE.mdなど) - 手順書:公開や審査の手順、つまずいたところと直し方
- 決めたことの記録:なぜそうしたのか。あとで迷ったときの手がかりになります
頼み方の例
4. 話題ごとに、やりとりを分ける
ひとつのやりとりで、サイトのこと、アプリのこと、文章のことを全部話していると、AIが混乱しやすくなります。話題が変わったら、新しいやりとりを始めます。そのとき、前のやりとりで決まったことをメモに残してから移ると、続きから始められます。
5. 消す前に、もどせる形に
ファイルを消す、大きく作りかえる。そういうときは、先に「もどせる形」を作ってもらいます。前の状態を別の場所に残しておく、変更の履歴をとっておく、など。
頼み方の例
6. AIに推測させない
アプリのURL、商品のページ、人の名前や数字。AIは、知らないことでも、それらしく書いてしまうことがあります。事実は、あなたが渡します。渡したものは、AIに実際に開いて確かめてもらいます。
AIに渡さないもの
- パスワード、確認コード、口座の番号、秘密の鍵
- 公開してはいけない、ほかの人の個人情報
- 自分が載せたくない情報(住所など)。うっかり書かれないよう、メモに「書かない」と残しておくと安心です
ヒトリキカクの場合
私はClaudeを、ヒトリキカクの「ただ一人の従業員で、相棒」だと思っています。私が店主で、何を作るかを決める。相棒が案を出し、形にし、私が確かめる。そのくり返しで、Webサイトも、本も、アプリも作ってきました。
相棒には、メモを残してもらっています。サイトの決まりごと、作品ごとの経緯、私が過去に「それは違う」と言ったこと。おかげで、日をまたいでも、話題を分けても、続きから作れます。この本も、その相棒と一緒に書きました。
あなたなら、どうする?
- あなたにとって、AIは何ですか。道具、助手、相棒、それともほかのことばですか。
- どんなに便利になっても、AIに任せたくないことは何ですか。
- この本を読み終えて、次に作ってみたいものは何ですか。
ヒトリキカクが大事にしたこと
正解ではなく、ひとつの例です。あなたのやり方と、くらべてみてください。
- AIはまちがえる、忘れる、多めに作る。その性質を知って付き合う
- 決めるのは自分。確かめてから次へ
- 決まりごと・手順・決めたことは、ファイルに残してもらう
- 話題ごとにやりとりを分け、消す前にもどせる形に
- 事実は自分が渡す。秘密の情報は渡さない
おわりに
小学生のころ、MSXの前に座って、雑誌のプログラムを1行ずつ打ちこんでいました。打ちまちがえれば動かない。動けば、それだけでうれしい。あれから何十年もたって、いまは日本語で伝えれば、AIが形にしてくれます。
この本は、プログラミングに一度挫折した人間が、AIと一緒に作ってきた記録です。うまくいったことより、つまずいたことのほうが多かったかもしれません。それでも、作品は少しずつ増えていきました。
ここに書いたのは、ヒトリキカクのやり方です。正解ではありません。あなたには、あなたの作りたいものがあり、あなたに合った進め方があるはずです。ヒトリキカクでもできた。だから、あなたもきっとできる。この本が、あなたが自分のやり方を見つけるための、きっかけになればうれしいです。
小さくてかまいません。1ページの自己紹介からでかまいません。まず、ひとつ作って、世に出してみてください。
AIの道具は、これからも変わり続けます。この本も、それに合わせて書き直していきます。