1人1台端末がもたらした変化と、新たな負担
2020年度から本格的に整備が進んだ「GIGAスクール構想」により、児童生徒1人1台の学習用端末と高速通信環境が全国の学校に整いました。個別最適な学びや、心身の健康観察による早期発見など、多くの効果が期待される一方、それを使いこなす教員側の負担も新たに生まれています。
もともとは5年計画だった
GIGAスクール構想は、2019年12月の閣議決定時点では、2023年度までに全国の児童生徒に1人1台の端末を整備するという、5年がかりの計画でした。ところが2020年初頭からの新型コロナウイルスの感染拡大により全国の学校が一斉休校となったことを受け、政府は「学びを止めない」ことを掲げて整備スケジュールを大幅に前倒しし、令和元年度・2年度の補正予算を投じて、実質的に2020年度内での整備完了を目指す方針に切り替えました。もともとはプログラミング教育の充実などが主な目的だった構想が、コロナ禍を経て「いつでも在宅オンライン学習に切り替えられる環境をつくる」という、緊急時対応としての性格を強く持つようになったのです。この経緯もあり、自治体や教員がICT活用の準備を十分に整える時間が確保できないまま、現場に端末とネットワークだけが先に整った、という側面も指摘されています。
出典:ナイスモバイル「GIGAスクール構想の現状」、教育業界ニュースReseEd(2024年11月)
「使いこなす時間」が確保できない
ICTを活用した授業づくりには、教員自身のICTリテラシーの向上が欠かせません。しかし、授業準備や校務、端末・情報の管理といった日々の業務量を考えると、自己研鑽にあてられる時間には限界があります。ICT活用のための研修機会を十分に用意できている学校ほど、実際の授業でのICT活用が進んでいるというデータもあり、個人の努力だけに委ねるのではなく、組織としての研修体制づくりが課題になっています。世代や個人によってICTへの習熟度に差があることも、現場での指導力のばらつきにつながっています。
校務のICT化は、教室の外側で着実に進んだ
授業でのICT活用と並行して、成績処理や出欠管理、指導要録の作成といった校務そのものをデジタル化する「統合型校務支援システム」の整備も進められてきました。2017年時点では、町村の導入率が17.4%にとどまるなど自治体間の差が大きかったのですが、文部科学省が主導して導入を後押しした結果、2023年度時点での整備率は9割を超えています。ある自治体の試算では、システム導入により教員1人あたり年間200時間を超える業務時間が削減されたという報告もあり、GIGAスクール構想が「授業」の環境を変えたのに対し、統合型校務支援システムは「事務作業」の環境を変えてきたと言えます。教科指導のページで見た「見えない仕事」の負担を軽くする、地味ながら実効性の高い改革の一つです。
支援人材の不足という構造的な壁
教育現場のICT活用を支える「ICT支援員」や「GIGAスクールサポーター」といった専門人材の配置は、多くの自治体で追いついていません。その結果、ICTに詳しい一部の教員に対応が集中してしまう、いわゆる「特定の人への負担集中」が起きている学校も少なくないと指摘されています。端末のトラブル対応やアカウント管理、安全に使うためのルールづくりなど、専門的な知識を要する業務が、教員の「片手間の仕事」として積み重なっている実態があります。
更新時期を迎える端末と、新しい課題
2020年前後に整備された学習者用端末は、更新の時期を迎えつつあり、故障の増加や機能面での限界も指摘されるようになっています。あわせて、生成AIをどう授業に取り入れ、どうリスクを管理するかという新しい論点も浮上しており、GIGAスクール構想は「整備すれば終わり」ではなく、継続的な運用と支援を必要とする長期的な取り組みであることが改めて意識されています。
生成AIという、さらに新しい論点
2023年頃から急速に普及した生成AIは、学校教育にも新しい問いを投げかけています。作文や調べ学習にAIをどこまで使わせるか、教員自身が教材作成や校務に生成AIを活用してよいか、著作権や情報の正確性をどう扱うかなど、明確な正解がまだ定まっていない論点が数多くあります。文部科学省はガイドラインを示していますが、現場の運用は学校や自治体、さらには教員個人の判断に委ねられている部分が大きく、対応にはばらつきが生じやすい状況です。GIGAスクール構想がもたらした「情報環境の均質化」の次に、「生成AIとの向き合い方の違い」という新しい格差が生まれつつあるとも言えます。
前向きな効果も
一方で、1人1台端末を使った日々の心身の健康観察が、いじめや不登校の兆候の早期発見に役立っているという分析も文部科学省から示されています(生徒指導のページ参照)。ICTは負担だけでなく、教員が児童生徒の変化に気づく新しい手段にもなり得るという両面を、あわせて押さえておく必要があります。