高止まりする休職者数と、そこに至るまでの要因
文部科学省が毎年公表する「公立学校教職員の人事行政状況調査」は、精神疾患によって病気休職した教員の数を明らかにしています。ここ数年の推移を見ると、教育現場のメンタルヘルスをめぐる状況の厳しさが浮かび上がります。
| 年度 | 休職者数 | 備考 |
|---|---|---|
| 令和4年度(2022) | 6,539人 | |
| 令和5年度(2023) | 7,119人 | 過去最多、初めて7,000人を超える |
| 令和6年度(2024) | 7,087人 | 前年度よりわずかに減少するも高止まり(全体の0.77%) |
出典:文部科学省「公立学校教職員の人事行政状況調査」各年度版
学校種別・年代別に見えてくること
2024年度の内訳(速報段階の報道ベース)では、小学校3,458人、中学校1,639人、高校1,006人が精神疾患により休職しています。また令和5年度のデータでは、20代1,276人、30代2,128人と、若手・中堅層での休職が目立っており、キャリアの早い段階で心身に不調をきたす教員が少なくないことがうかがえます。
要因として挙げられているもの
文部科学省が教育委員会に行った調査では、精神疾患による休職の要因として、「業務内容(児童・生徒に対する指導そのものに関すること)」「職場の対人関係(上司、同僚、部下等)」「業務内容(校務分掌や調査対応等、事務的な業務に関すること)」が多く挙げられています。授業や生徒指導という本来の仕事そのものの重さに加えて、職場内の人間関係や、指導とは直接関係のない事務的な業務の負担が、心身の不調につながっている構図が見えてきます。
国際比較に見るストレスと離職意向
TALIS2024の日本の詳細データでは、中学校教員の職務満足度や授業目標の達成度が国際的に見て低く、強いストレスを感じる割合が参加国平均より高いことが指摘されています。あわせて、30歳未満の教員の離職意向についても懸念すべき水準にあるとの分析が示されており、長時間労働の問題は、心の健康や、教職を続けていく意志そのものにも影響を及ぼしていると考えられます。
診断名として多いもの
精神疾患による休職の内訳を診断名別に見ると、うつ病や適応障害が多くを占めるとされています。適応障害は、特定のストレス要因がきっかけとなって心身に不調をきたす状態で、その要因から離れれば比較的短期間で改善しやすいとされる一方、うつ病は原因から離れても症状が長引きやすいという違いがあります。学校現場では、多忙による疲労の蓄積に加え、保護者対応や職場内の人間関係といった特定のストレス要因が重なり、適応障害からより慢性的な状態に移行してしまうケースもあると指摘されています。不調のサインを早い段階でキャッチし、環境を調整すること(校務分掌の見直しや一時的な業務軽減など)が、重症化を防ぐ鍵になるとされています。
管理職の「なり手不足」という、もう一つの側面
精神的な負担が重くなっているのは、一般の教員だけではありません。副校長・教頭への昇任選考の受験率は、多くの教育委員会で低下傾向にあると指摘されています。ある教育委員会の検討委員会が副校長・主幹教諭を対象に行った調査では、管理職選考を敬遠する理由として「雑務が多く教育そのものに関わる仕事が少ない」「勤務時間の長さ」が多く挙げられました。教員としてのやりがいを感じにくくなる一方で、労務管理や保護者対応の最終責任、教育委員会への報告業務など、管理職特有の負担だけが重くのしかかる構造が、受験率低下の背景にあると考えられます。
管理職のなり手が不足すれば、教頭が担任の代わりに授業に入ったり、本来主幹教諭や教頭が担うはずだった若手指導や校内調整が校長一人に集中したりと、学校運営そのものに影響が及びます。改善の糸口のページで見た「チームとしての学校」の答申が、副校長・教頭の複数配置や主幹教諭の配置促進を掲げていたのも、この管理職の負担そのものを分散させる必要があるという認識に基づいています。教員のメンタルヘルスと、管理職のなり手不足は、支える側の層全体が薄くなっているという意味で、根を同じくする課題です。
「支える側」が減っていくという悪循環
精神疾患による休職者の増加、それに伴う退職、そして教員採用試験の倍率低下や教職員の未配置は、それぞれ独立した問題ではなく、互いに影響し合う一つの循環として理解する必要があります。休職者が出れば、代替の講師を探す必要が生じますが、講師のなり手自体が不足しているため、残った教員の負担がさらに増えます。負担の増加は新たな休職者を生み、教職を目指す学生からは「大変な仕事」というイメージが強まり、採用試験の受験者数がさらに減っていく。この悪循環をどこかで断ち切ることが、複数の改革に共通する狙いです(改善の糸口のページ参照)。