01 / 教科指導

教科指導の負担

授業をつくり、子どもの学びを支える。教員のいちばん中心的な仕事のはずが、実際にはそのための時間の確保がもっとも難しくなっています。

01 / 教科指導

授業をつくる時間が、いちばん確保しにくい

教員の本来の仕事は、授業を通じて子どもたちの学びを支えることです。しかし実際には、教材研究や授業準備そのものよりも、それ以外の業務に多くの時間が割かれているという実態が、国際調査からも見えてきます。

36.6% 中学校教員のうち、いわゆる「過労死ライン」とされる月80時間相当の時間外勤務をしている割合(文部科学省・教員勤務実態調査2022年度速報値)。
14.2% 同じく小学校教員の割合。前回調査より在校等時間は減少したものの、長時間勤務の教員は依然として少なくない。

出典:文部科学省「教員勤務実態調査」(令和4年度実施)速報値、東洋経済education×ICT(2025年10月)

「仕事時間は世界最長」なのに、授業時間は平均より短い

OECDが2025年10月に公表した国際教員指導環境調査(TALIS2024)によると、日本の小中学校教員の週あたり仕事時間は、小学校52.1時間、中学校55.1時間で、参加国・地域の中で最長でした。前回2018年調査(小学校56.1時間、中学校59.1時間)からは改善したものの、参加国平均(小学校40.4時間、中学校41.0時間)を大きく上回っています。

興味深いのは、これほど仕事時間が長いにもかかわらず、授業そのものに充てている時間は小中ともに参加国平均より短いという点です。文部科学省の担当者は、日本の学校教育が学力の保障だけでなく、子どもの人格的な成長全般を支える役割を担ってきたことが背景にあると説明しています。裏を返せば、事務作業や学校運営業務、部活動指導など、授業以外の業務に多くの時間が費やされているということでもあります。

成績処理・通知表・テスト作成という「見えない仕事」

定期テストの作成・採点、通知表や指導要録の作成、日々の宿題やノートの点検など、授業時間の外で発生する業務は数多くあります。近年はこれに加え、1人1台端末を使った学習記録の管理や、デジタル採点・デジタル通知表への対応など、ICT関連の業務も新たに積み重なっています(詳しくはICT教育・GIGAスクール構想のページで扱っています)。一つひとつは小さな業務でも、積み重なることで教材研究に充てられる時間を圧迫している、という声は現場から根強く聞かれます。

背景として指摘されていること 日本労働研究雑誌に掲載された国立教育政策研究所の分析では、日本の教員は「一般的な事務業務」「同僚との共同作業や話し合い」「学校運営業務への参画」など、子どもと直接向き合わない時間や、中学校では課外活動(部活動)に費やす時間が、国際的に見て特に大きいことが指摘されています。

学級の規模と指導体制そのものの見直し

教科指導の土台となる制度も、この数年で変化しています。2021年に改正された義務教育標準法により、公立小学校の1学級あたりの上限人数は、それまでの40人(小学1年のみ35人)から35人へと、2021年度から2025年度にかけて学年ごとに段階的に引き下げられました。小学校全学年で学級編制基準が一律に見直されるのは約40年ぶりのことです。少人数化によってきめ細かい指導がしやすくなる一方、学級数が増える学校では教室や教員の確保が新たな課題になっており、35人学級の実現に伴う教職員定数の改善(2025年度までに約1万3,500人程度)が、そのまま採用増につながっています。

もう一つの大きな変化が、小学校高学年(5・6年生)における教科担任制の導入です。2022年度から、中央教育審議会の答申を受けて、専科の教員が複数の学級を横断して教科を受け持つ体制が全国で段階的に進められています。学級担任が全教科を一人で担ってきたこれまでのあり方に比べ、教員一人あたりの授業準備の教科数を絞り込める利点がある一方、学校の規模によっては専科教員の確保自体が難しく、制度の恩恵を十分に受けられない学校もあるのが実情です。

全国学力・学習状況調査に映る学力の現在地

毎年4月に小学6年生と中学3年生を対象に実施される全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)は、教育政策の効果を測る指標であると同時に、教員自身が指導を振り返る材料としても使われています。2025年度の結果では、国語・算数(数学)の正答率が小中ともに前年度を下回りました。理科は3年ぶりの実施で、中学校では初めてコンピューター使用型(CBT)に切り替わっています。

2025年度の都道府県別分析では、学力層の分布に大きな地域差があることも明らかになりました。学力調査の結果は、指導方法だけでなく、家庭の経済状況や地域の教育資源といった学校の外側にある要因にも左右されるため、結果をそのまま学校や教員の指導力の評価に直結させることには注意が必要だとされています。文部科学省は今後、学力調査のデータを不登校児童生徒や特別な支援を要する児童生徒への支援策の検討にも活用していく方針を示しており、単純な順位づけよりも、指導改善のためのデータとして活用する方向へと軸足が移りつつあります。

一人ひとりに合わせた指導という、新しい前提

近年の学習指導要領は「個別最適な学び」を掲げており、同じ教室の中でも、発達に特性のある児童生徒への配慮、日本語指導を必要とする外国籍の児童生徒への対応、学習内容の理解度に応じた課題の出し分けなど、一律の一斉授業だけでは対応しきれない場面が増えています。特別支援学級に在籍する児童生徒数は近年増加が続いており、通常の学級に在籍しながら通級指導を受ける児童生徒も増加傾向にあります。理念としては望ましい方向であっても、それを一人の教員が、増員のないまま既存の授業時間の中でこなしていくとなると、準備や教材づくりの負担はさらに重くなります。

「持ち帰り仕事」という見えにくい労働

学校に在校している時間だけでなく、自宅に教材やノートを持ち帰って行う採点や準備も、教員の労働時間の一部です。文部科学省の勤務実態調査は主に在校等時間を対象としており、持ち帰り仕事の実態は調査によって数値の差が大きく、公式統計として正確に捉えることが難しい領域とされています。「在校時間は減っているのに、忙しさの実感は変わらない」という現場の声の背景には、こうした見えにくい労働時間の存在があると考えられます。