08 / 改善の糸口

改善の糸口

給特法の改正、働き方改革指針の見直し、部活動の地域展開。少しずつ動き出している制度と、現場の実感との距離を事実として整理します。

08 / 改善の糸口

動き出している制度と、現場が感じているギャップ

ここまで見てきた課題に対して、国や自治体、学校現場ではさまざまな見直しが進められています。ここでは、実際に制度として動き出している主な取り組みを、事実として整理します。制度の評価や是非についての立場は、このページでは示しません。

改革の源流にある「チームとしての学校」という考え方

給特法改正や働き方改革指針など、これから見ていく個別の制度の多くは、2015年12月に中央教育審議会がまとめた答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(中教審第185号)を一つの源流としています。この答申は、教員が学習指導から生徒指導、部活動まで幅広い業務を一人で担ってきたこれまでの学校のあり方を見直し、心理・福祉の専門家や事務職員など、多様な専門性を持つ人材が教員とチームを組んで学校運営にあたる体制への転換を提言しました。

答申は3つの視点を示しています。第一に、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど、教員以外の専門スタッフの配置を進める「専門性に基づくチーム体制の構築」。第二に、副校長・教頭の複数配置や主幹教諭の配置促進、事務職員の役割強化といった「学校のマネジメント機能の強化」。第三に、人事評価や研修を通じて教職員一人ひとりの力を引き出す「教職員一人一人が力を発揮できる環境の整備」です。教職員のメンタルヘルスのページで見た「支える側が減っていく悪循環」を組織的に断ち切るための処方箋として、この答申の考え方は今も政策の土台になっています。

とりわけ主幹教諭や副校長・教頭といった学校マネジメント層については、この答申の時点ですでに「配置促進」「複数配置」「加配拡充」の必要性が明記されていました。学校経営を担う立場を目指すのであれば、個別の制度の背後にあるこの答申の考え方を押さえておくことが、その後の給特法改正や働き方改革指針を理解するうえでも助けになるはずです。

給特法等の改正(2025年6月成立・公布)

公立学校教員の給与や働き方の基本ルールを定める「給特法」等の改正法が、2025年6月に成立・公布されました。柱となるのは、残業代の代わりに支給される「教職調整額」を、給料月額の4%から10%へ段階的に引き上げること、教育委員会に教員の業務量を適切に管理するための実施計画の策定・公表を義務づけること、そして早期離職が課題となっている若手教員を支える新しい職として「主務教諭」を新設することです。あわせて、1か月あたりの時間外勤務を令和11年度までに30時間程度に減らすという数値目標も、附則に明記されました。施行は2026年4月からですが、教職調整額の引き上げは2026年1月から先行して始まります。

国会では、自民・公明・立憲民主・維新・国民の各党が賛成した一方、れいわ新選組と共産党は「労働基準法違反の状態が解消されない」として反対しました。改正の評価については、こうした異なる立場があることも事実として付け加えておきます。

働き方改革指針の改定(2025年9月)

文部科学省は、学校や教員が担う業務を「学校以外が担うべき業務」「教員以外が積極的に参画すべき業務」「教員の業務だが負担軽減を促進すべき業務」の3つに整理し直す指針改定を行いました。プールの管理や端末の保守を「教員以外が積極的に参画すべき業務」に、保護者からの過剰な苦情への対応を「学校以外が担うべき業務」に位置づけるなど、具体的な業務の切り分けが進められています。あわせて、校長など管理職の人事評価に、業務改善やワーク・ライフ・バランス推進の目標を設定するよう求める通知も出されています。

部活動の地域展開、保護者対応の外部化

部活動の地域展開や、保護者対応の高度化事業・スクールロイヤーの拡充など、学校が抱えてきた業務の一部を地域や外部の専門家と分担していく取り組みも進んでいます。教員でなければできない仕事と、そうでない仕事を切り分けていく発想は、複数の改革に共通しています。

採用・処遇面での取り組み

  • 産休・育休の代替教員について、2026年4月から正規教員も国庫負担の対象とする方針が決定。
  • 教職員定数の改善計画が策定されているが、少子化に伴う自然減もあり、現場からは「実質的な増員につながっていない」との指摘もある。
  • 教員免許を持たない社会人などの入職経路を広げる免許制度改革が、中央教育審議会で議論されている。

現場から聞かれる声

処遇改善そのものは前向きに受け止められている一方、教職員組合や研究者からは「教職調整額を引き上げるだけでは、業務量そのものが減らなければ効果は限定的だ」という指摘も出ています。給特法改正は「50年ぶりの前進」と評価される一方で、「根本的な解決には至っていない」という受け止めも同時に存在しており、制度の前進と現場の実感との間には、まだ距離があるのが現状です。

「学校の中を変える」だけでは足りないかもしれない

ここまで見てきた改革の多くは、学校というシステムを前提に、その内側の業務量や人員配置を見直そうとするものです。一方で学びの多様化のページで見たように、通信制高校や学びの多様化学校、フリースクールといった、学校の外側・あるいは学校の形そのものを変える動きも並行して広がっています。教職員の働き方改革と、学びの場そのものの多様化は、別の政策領域として語られることが多いものの、根っこにある問い、つまり「画一的な一斉指導・毎日登校を前提とした従来型の学校は、これからも社会の標準であり続けられるのか」という問いは共通しています。この二つの動きを、切り離さずに見ていく視点も必要になってきています。

このページで大切にしたいこと 改善の道筋は一つではなく、処遇、業務量、人員配置、地域との連携、そして学びの場そのものの多様化など、複数の取り組みを同時に積み重ねていく必要があります。どの制度にも進んだ面と課題として残る面があり、このサイトでは、その両方をできるだけ公平に記録することを心がけています。